Lights:3
2人分のコーヒーを入れて、彼の前に差し出す。
「……どうも」
2人で1口コーヒーを飲む。
「「ハア」」
同時にため息のような声を出す。私は笑いの沸点が低い。
それだけで、涙が出るほど笑ってしまっている。
「そんなに可笑しいですか?」
「ごめん……なさい……でも、おかしくて」
笑い続けている私を彼は真顔で見ている。
まるで見下すような冷たい眼差しだった。
私は、それでも笑っていた。
「はぁ、はぁ……」
やっと落ち着いた頃、彼はもうコーヒーを飲み終わっていた。
終わってしまっていた。
「…と、これ飲んだら帰りますから。お気になさらず」
彼は黙っている。
コーヒーを飲み終わると、私は2人のカップを片付ける。
「お付き合い頂きありがとうございました」
私は深々と頭を下げて、バッグを手に取った。
「コーヒー、美味しかったです。…因みにこれ、いくらだったんですか?」
何を聞いているんだろう、この人は。
「300円位のインスタントコーヒーですよ」
「……そうじゃなくて。……あなたに会う時の……」
「は?」
「へ?」
「……どうしてそんなこと?聞くの?」
次なんてない。
綺麗な世界の綺麗なアイドルに買われるほど、私は……
綺麗じゃない。
「また、あなたのコーヒーが飲みたい……そう思っただけです」
「だったら、これを置いて行きます。さようなら。」
私はコーヒーを置いて、その場を後にした。
見下すような目で見てたくせに。
何が、ホープよ。
何が、希望よ。
「ヨナ!ヨナ!いる!?」
むしゃくしゃしながら帰宅した。
ヨナと暮らすアパート。
「何っ!?あの客は!?」
「……いのり?……」
ベッドに横たわるヨナが見えた。
泣いていた?
何かあった。
「ヨナ?……どうしたの?」
「……また、振られちゃった」
ヨナが転換を望む理由。
愛する相手に受け入れられたいから。
どんな身体であろうと、受け入れてくれる相手は今まで1人もいなかった。
「ヨナ、おいで」
私はヨナを抱きしめた。私よりも体格のいいヨナ。
その体を小さくして、小刻みに震えて泣いている。
彼女は彼女だ。
なのに目に見えない部分を知った時、人はいとも簡単に裏切ってしまう。
悲しいよね。
辛いよね。
怖いよね。
逃げたくなるよね。
でも、私はそばにいるよ。
そばにいるから、気が済むまで泣いていいよ。✨