Lights:7
「……あの、この人が何か?」
私にぶつかり、大丈夫かと手を取った人が男に聞く。
「こ、この女っ!……金払ってやったのに、逃げようとしてっ!……」
そう、声を荒らげたが、ハッとして周りを見渡す。
何があったのかと人が集まり掛けていた。
私の手を掴んでいる人は、サングラスにニット帽、黒いマスクをしている。
男は罰が悪そうに、何かモゴモゴと言っている。
「……おじさんっ!悪いことは言わない。早く帰った方がいいんじゃない?」
「……っ!……くそっ!」
ブツブツと悪態を着きながら、男はどこかへ行ってしまった。
緊張の糸が切れたように、転んだ時の身体の痛みが襲って来る。
私は倒れ込んだまま、天を仰ぎ、痛みに涙した。
「……立てますか?」
男を追い払ってくれた人が声を掛けてくれる。
私は頷くしかできず、それでも立ち上がれずその場に上半身を起こして、座り込んだ。
着ていた服は転んだ時に汚れてしまっていた。
メガネも曲がっている。これでは、視界が歪んでしまう。
何より、こんな格好で帰ったら、ヨナに怒られる。
きっと心配させてしまう。
「どうしよう……?誰か呼びますか?……」
その人は心配そうに私を見ていた。
「ありがとうございました。おかげで助かりました。……少し休んだら、歩いて帰れますから……」
私はそう言って、曲がったメガネを直そうと外す。
すると、その人は私の顔を見て、声をあげた。
「お?……おおお?」
私はぼやけて見えない、その人を見上げた。
誰かな?
まさか、知り合い?
曲がったメガネを直そうと、手に力を加えた時だった。
ポキッ
私のメガネはいとも簡単に折れてしまった。
「「あ……」」
両手に折れた私の黒縁メガネ……
ハアと大きくため息を付いて、痛い足に力を込めて立ち上がる。
スカートに着いた砂ぼこりをはらいながら。