Lights:8
「……それじゃぁ、私はこれで」
「あの、メガネなくて大丈夫ですか?」
歩き出そうとしたところで、その人が声をかけてきた。
「……あれは左目のためだけのものなので、右目は見えますから。途中で友人にでも迎えに来て貰います」
「この先にメガネ屋さんがあります。……行きましょ?」
「……いやでも、お金も持ってきてないし……」
「大丈夫。……僕があなたを買います。メガネはそのお代と言うことで」
「はい?」
そう言って、かけていたサングラスを下げて見せた。
ん?
私はぼんやりとした視界でその目を見る。
どこかで見たようなないような。
それに聞き覚えのある声。
ん?
……誰?
数分歩いたところに、本当にメガネ屋があった。
その人はお店の常連なのか、店に入るなりニコニコとした店員が出てくる。
「お待ちしておりました、ホソク様」
ホソク?
何か聞き覚えのある名前。
でも、誰なのか思い出せないでいた。
「……すみません。彼女のメガネをお願いしたいんですけど。」
「……はい?」
店員は不思議そうに私の方を見ている。
転んだせいで汚れてしまった衣服。改めて見てみて、恥ずかしさが込み上げて来た。
「あ、あと頼んでいたサングラス。入ったと聞いて取りに来ました」
「こちらから、お届けしましたのに。……わざわざ足を運んで下さり、いつもありがとうございます。」
2人ともニコニコと会話している。
ものすごい場違い感。
「……では。こちらにどうぞ」
視力を図らせて欲しいと店員に奥の部屋に連れて行かれた。
目のことを店員に伝える。
左目が極端に悪いので、それに合わせて欲しいと。
「かしこまりました。……フレームはいかが致しますか?」
「地味な黒のものでいいです。1番安いもので。」
「かしこまりました。少しお待ち下さい。すぐにご用意します。」
ご丁寧に対応してくれる。
なんだか、申し訳ない気持ちになってきた。
小部屋を後にして、フロアに戻る。
助けてくれた人は、店内にあるサングラスをあれこれかけては、鏡の前でポーズを取っている。
鏡越しに私に気づいて、こちらを向く。
私は軽く会釈する。
「あの、メガネ代は後できちんと払いますから……」
「……いりませんよ。さっきも言いました。あなたのお代代わりです。」
「……いや、そういう訳には……」
そう言いかけて、ふと思う。
この人は私があの男に買われたと知っている?
「……お客様、メガネが出来ました。……つけて見て貰えますか?」
「え?、あ、はい」
出来上がったメガネを掛けて、その人の顔を見る。
「……っ!」
「アンニョーン」
そう言って、その人は私が置いて行ったはずのコーヒーの瓶を顔の横で左右に動かしている。マスク越しにもニコニコしているのがわかる。
チョ・ホソク=Jhope。
思わぬ再会に心が曇った。