Lights:4
あの夜から、約束通り、私は客を取らなくなった。
取れなくなった。
綺麗じゃない自分を再認識してしまった。
失った光。
逃げ出した私。
わざと汚して、惨めにさせて、逃げ続けた自分。
ホープ。
また私のコーヒーが飲みたいといった。
あの言葉が頭のなかをグルグルと回っている。
「いのり?」
伯母が不思議そうに私を見ている。
「ん?、何?」
「ここにあったコーヒーの瓶知らない?」
「ああ、それなら……」
バッグの中に手を伸ばして思い出す。
あそこに置いて来てしまった。
……しまった。
あれ、店の売り物だった。
店の名前、入っているんだった…。
あの人にわかるはずがないよね。
大丈夫。
気にしてなんかない。
きっと、分からない。
チャリンと、入口のドアが開く音がした。
「いーのーりー」
ヨナだった。
胸を撫で下ろした。
「コーヒーっ!……聞いてよっ!店に変なお客がいてね。もうキモイったらありゃしない」
ヨナは思い出したのか体を身震いさせた。
ヨナは近くの雑貨店で働いている。手先の器用なヨナはそこで自分で作ったアクセサリーなんかも売っていた。
私は身震いしたヨナのその様子が可笑しくて、また笑いが止まらなくなった。
「今はお昼休み?、何か食べて行く?」
伯母はニコニコとしながら、ヨナに聞く。
「おばさんのホットクが食べたい!」
「ハイハイ」
私は伯母の隣で3人分のコーヒーを入れた。
豆を引いて、ゆっくりとお湯を注ぐ、コーヒーのいい香りが店内に溢れる。
静かな店内にこの香りが溢れていく、そんな時間、空間が好きだった。
「はい、どうぞ」
そこに伯母が焼いたホットクが加わる。
甘い香りとほろ苦いコーヒーの香り、私とヨナはカウンターに座って、ひとつの皿のホットクをわけながら食べる。
「……そうだ」
ヨナは持っていたバッグから、封筒を取り出す。
手術の日程を決めて来たと言う。